Notes

変であることしか残らない

ブランディングAI

AIに頼めば、及第点のデザインが出てきます。綺麗な文章も、整然としたコードを書くことも一瞬で出来てしまいます。

少し前まではポン出しの生成物が作れること自体が差となっていましたが、これからはもっと簡単にクオリティの高いものが作れるようになるでしょう。

では、何が残るのか。AI時代のブランディングについて考えていたことを、実際に選んだ判断とあわせて書きます。

平均が無料になった

起きたのは能力の底上げではなく、平均の無料化です。

きれいなレイアウト、整った日本語、動くコード。以前はそこに到達するだけで一定の価値がありましたが、今ではほんの一瞬で出力できるようになりました。

つまり「ちゃんとしていること」は、もう武器ではありません。参加費です。

残るのは、平均から外れた部分だけ

及第点が配られる世界で差になるのは、平均から外れている部分だけです。

外れ方は真似できません。技術は追いつかれますが、その人の偏りは追いつかれない。だから戦略として「変であること」を選ぶ、という話をします。

抽象論だと安っぽく聞こえるので、自分が実際にどう変にしたかを4つ書きます。

判断1:コンビニを連想させる言葉を、静かなブランドに貼った

例えばこのプロジェクトのブランド名は Tokyo Convenience です。convenience は、日本語だとコンビニを連想させる大衆的な言葉です。それを、黒基調で余白の多い説明を避けたブランドに貼りました。

言葉と中身が噛み合っていません。その噛み合わなさ自体を記号にしたかったからです。

構想初期段階では一度揺れました。「もっと説明的な名前の方が覚えられるのでは」と考えたんです。

しかし説明的な名前は、天井が決まってしまいます。 名前が意味を説明してしまうと、その意味より上には積めなくなる。 私はTOKYO CONVENIENCEをただのAI教材売り場にするつもりはありません。コミュニティとしての進化の先に広がる大きな世界を作りたいと思っています。説明的な名詞では大きく育てるべき器に最初から蓋をすることになります。

名前が意味を説明しないからこそ、上に何を積んでもいい土台ができるのです。

判断2:明るくしなかった

何度も迷いました。「黒より明るい方が信用されるのでは」「情報商材っぽく見えないか」と。

考えて行き着いたのは、情報商材っぽさの正体は黒ではないということでした。犯人は、金色と、強い光沢と、煽りの言葉と、詰め込まれた情報です。

黒には正反対の2系統があります。ひとつは引き算の黒。余白と静けさで格を出すやり方。もうひとつ同じ色でも行き先が真逆です。

自分がやっていたのは前者だと確認できたので、黒のまま進めました。

判断3:盛るのをやめた

YouTubeのサムネイルを作っていて、文字に金のグラデーションを使っていました。外しました。上に書いた通り、それが情報商材の記号そのものだったからです。

もうひとつ、数字も変えました。運用コストの削減幅を「大幅削減」と書いていたのを、実測して「97%に変更した」

盛った方がクリックはされます。

ただ、盛って開けたときに中身が薄いと、その一回で終わります。逆に、先に正確な数字を出しておくと、本編で語る内容が「おまけ以上の本題」として効きます。

97%という中途半端な数字は、測った人にしか書けません。丸い数字より、そこに説得力があります。

判断4:用意された枠から出た

別プロジェクトの話になりますが、自社のECサイトを3年使ったプラットフォームから引き上げて、自分たちで作り直しました。3D空間を歩き回って買い物をする店です。

固定費は月額から、ドメイン代だけになりました。ただ、実際にやってみて大きかったのは金額ではありません。表現を諦めなくてよくなったことでした。

用意されたテーマの上では、「こうしたい」がだいたいどこかで通りません。小さな妥協が積み重なって、気づくと他店と同じ顔になっている。そこから出た結果、空の色が東京の時間と連動する神秘的な3Dギャラリーストアが完成しました。売上には一切関係ありませんが、他所には無い私たちだけの世界観を作ることができたのです。

変であることは、内側からしか出てこない

ここが肝心なところです。

AIに「変なデザインにして」と頼むと、平均的な出力が返ってきます。学習した膨大なデータの中央値を返す仕組みなので当然です。奇抜さを注文しても、奇抜さの平均が出てくる。

本当に外れているものは、その人の中にしかありません。育った場所、続けてきた趣味、しつこく気になっている違和感。説明できない感情や、より属人的なものほど代替されません。

だから、自分の偏りを削って一般的にする方向はとてももったいなく感じます。逆に、偏りを残す方に賭けることで将来的に唯一無二なブランドへと強化されていきます。

時間を掛けることでしか作れないものがある

最後に、いちばん長い目線の話をします。

AIは平均を一瞬で作れますが、時間だけは作れません。

私が15年以上グラフィックデザインをやってきた中で溜まった細かいこだわり。3年ネットショップを運営して分かった注文が来る瞬間の手触り。どれも指示を出して手に入るものではありません。

ブランドとは、そういうものを詰め込んでいく器なんだと思っています。 名前だけがあって中身が無い状態から始めて、判断のたびに何かを入れていく。10年経つと、他人が真似できないものが溜まっている。

だから急いで完成させる必要がありません。今日の判断は、10年後に効きます。

まとめ